滋賀県立大学環境科学部 環境生態学科 Department of Ecosystem Studies

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STAFF 教員

水圏生態学研究室

  • 山田 寛之
  • 講師山田 寛之YAMADA, Hiroyuki

    専門分野

    水圏生態学

    キーワード

    淡水魚,進化生態学,行動生態学,空間的選別,隔離集団

    研究室

    B3棟(環境生態学科棟)201室

    研究業績

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最終学歴

北海道大学大学院水産科学院 海洋生物資源科学専攻 博士後期課程修了(2023年3月)

学位

博士(水産科学)(北海道大学)

職歴

  • 日本学術振興会特別研究員PD(2023年4月~2026年3月)
  • 滋賀県立大学環境科学部講師(2026年4月~)

所属学会

  • 日本生態学会
  • 日本魚類学会
  • 日本動物行動学会

受賞歴

  • 日本生態学会第66回大会ポスター賞最優秀賞 (2019年3月)
  • 伊藤一隆賞 (2023年3月)
  • 日本生態学会中国四国地区会若手研究者最優秀発表賞 (2023年5月)
  • 第10回 Journal of Ethology 論文賞 (2023年11月)
  • 日本生態学会中国四国地区会最優秀ポスター賞 (2024年5月)
  • 日本生態学会中国四国地区会最優秀ポスター賞 (2025年5月)

研究内容の
紹介

水圏生態学研究室では,琵琶湖周辺の河川や細流を主なフィールドとし,そこに生息する淡水魚を中心に,その行動や形態の多様性と,それらを生み出す進化生態学的なメカニズムの検証に取り組んでいます。研究では,魚類のヒレの長さや体高,水流に逆らうジャンプ行動,眼や瞳孔のサイズなど,多種多様な表現型に注目しています。また,研究活動を通して偶然新たに見いだされた行動形質や,それらの行動則の解明にも取り組んでいます。

移動の選択的メカニズム「空間的選別」を水圏生物で研究

生物の移動は,その表現型(行動や形態などの個体の特徴)と関連していることがよくあります。例えば,長い脚や羽をもつ個体や,移動時の直進性が高い個体ほど元の生息地を離れやすく,より遠くまで移動することは容易に想像できるのではないでしょうか。移動が表現型と関連して起こるということは,移動傾向を高める表現型が出発地から選択的に移出し,移動先には偏って移入することを意味します。その結果,出発地では定住的な表現型を示す個体の頻度が,移動先では移動性の高い表現型を示す個体の頻度がそれぞれ高まることにつながります。このような「移動傾向の個体差」に基づいて,集団の表現型組成を変化させる選択的メカニズムは「空間的選別(spatial sorting)」と呼ばれます。空間的選別は,生存率や繁殖成功度の違いによって生じる「自然淘汰(natural selection)」とは異なる選択的メカニズムとして位置づけられています。空間的選別の効果は,移動した個体がもとの生息場所へ戻ることで打ち消され,弱まってしまいます。そのため,空間的選別が自然淘汰のように安定した種内変異を生み出すかどうかについては,現在も議論が続いており,その解明は生物の多様性を理解するうえで重要な研究課題となっています。

河川生物の下流方向への移動は「流下」と呼ばれます。この流下も,魚類を含む様々な分類群において,表現型と関連して起こることが報告されており,河川生物でも「流下による空間的選別」が生じている可能性があります。興味深いことに,滝や堰堤などの段差の上流に隔離された魚類集団では,いったん段差の下流側へ流下すると,もとの生息地へ戻れない状況が珍しくありません。そのため,流下による空間的選別の効果が,段差の上流側で打ち消されることなく蓄積し,流下回避に適した表現型が高頻度でみられる隔離集団が,安定的に維持される可能性があるのです。もしそのような表現型に遺伝的基盤があれば,隔離集団内で流下回避傾向の高い個体同士の同類交配が発生し,他の集団では見られないような独自の表現型が局所的に進化する可能性があります。

紀伊半島南部の多雨地域の堰堤上流に生息するアマゴ。この生息地では体高が高い個体が出現します。

四国の多雨な棚田細流に生息するタカハヤ。この場所では尾柄部が細く,尾ビレが長い個体がみられました。

琵琶湖西部の急勾配河川に生息するホトケドジョウ。この細流には多数の砂防ダムが設置されており,本種はいくつかの区間でのみ生息していました。

水圏生態学研究室では,上記のような水圏における空間的選別に関連する進化生態学的仮説の検証を主軸に据え,山地渓流や棚田の細流,湧水河川の源流域などを主要フィールドとして,日本の淡水生物の見落とされがちな行動や形態の特異性・多様性を探索するとともに,それらに作用する選択的メカニズムの検証・観測に挑んでいます。

調査過程で見いだされる興味深い行動の研究

空間的選別の研究過程では,しばしば水圏生物の興味深い行動パターンが観察されます。例えば魚類のあくび行動はその好例です。イワナの稚魚を対象に,遊泳せず水底で静止する行動(着底行動)が流下回避に役立つと考えて行動観察を行っていた際,着底行動中の稚魚があくびをした後,間もなく遊泳を開始する行動パターンを偶然発見しました。この行動パターンは,内温動物で知られている「あくび後に行動が活発化する」という行動則とよく一致するものであり,私たちのあくび行動の機能の一部が,最初に顎を獲得した脊椎動物である魚類と共有されている可能性が示唆されました。今後も,調査過程で出会う興味深い行動特性について研究を進めていきたいと考えています。

イワナの稚魚のあくび行動。研究過程で発見される興味深い行動形質も研究対象にしています。