環境生態学科の学生は,環境問題の解決や環境保全に強い関心があります。また,自然環境のしくみやそこに生息する生物などに対しても幅広い興味をもっています。そのため卒業後の進路としては,本学科で修得した知識や技術を生かせる「環境に携わる職」を選択する傾向にあります。たとえば民間企業の場合,主な実績として環境コンサルタント(環境計測・調査・分析,環境アセスメント),水処理・浄化関連企業,化学分析会社などが挙げられます。このうち,環境コンサルタントでは,全国有数の実力やユニークな技術をもつ優良・安定企業に多くの卒業生を輩出しています。また,大学でさまざまな分析装置を扱ったことがきっかけとなり,分析機器製造販売の仕事に就く人もいます。環境に携わる職として,公務員(環境・行政職)も人気です。国家公務員や地方公務員となって,国や地域の環境保全に取り組んでいます。このほか,自然科学が好きでその知識を生かせる職として高等学校・中学校の理科教諭や農業関連団体という選択肢も毎年一定の人気があります。
本学科の約2〜4割の学生は大学院に進学しています。大学院修了生はそのほとんどが専門性をより生かした環境関連の職に就いています。大学院修了生の主な就職先については大学院進学ページをご覧ください。
卒業生の進路(平成26~令和5年度卒)
就職率と進学率の経年変化
就職率とは,就職希望者に対する就職者の割合です。過去10年間は90%以上で推移し,平均99%です。
進学率とは,卒業生に対する進学者の割合です。過去10年間の平均は32%で,ここ数年は約2~4割の学生が大学院に進学しています。
※表は横にスクロールできます。
年度 |
5 |
4 |
3 |
2 |
R1 |
就職率(就職者 / 就職希望者)(%) |
100 |
95.2 |
94.7 |
100 |
100 |
進学率(進学者 / 卒業生)(%) |
44.1 |
27.6 |
21.4 |
29 |
28.6 |
卒業生(人) |
34 |
29 |
28 |
31 |
28 |
就職者 / 就職希望者(人) |
17 / 17 |
20 / 21 |
18 / 19 |
22 / 22 |
18 / 18 |
大学院進学(人) |
15 |
8 |
6 |
9 |
8 |
その他(人) |
2 |
0 |
3 |
0 |
2 |
※表は横にスクロールできます。
年度 |
30 |
29 |
28 |
27 |
H26 |
就職率(就職者 / 就職希望者)(%) |
95.8 |
100 |
100 |
100 |
100 |
進学率(進学者 / 卒業生)(%) |
21.9 |
25 |
41.4 |
35.7 |
44 |
卒業生(人) |
32 |
28 |
29 |
28 |
25 |
就職者 / 就職希望者(人) |
23 / 24 |
20 / 20 |
17 / 17 |
17 / 17 |
13 / 13 |
大学院進学(人) |
7 |
7 |
12 |
10 |
11 |
その他(人) |
1 |
1 |
0 |
1 |
1 |
進学先
滋賀県立大学大学院 /京都大学大学院 /名古屋大学大学院 /北海道大学大学院 /滋賀大学大学院 /神戸大学大学院 /兵庫県立大学大学院 /千葉大学大学院 /高知大学大学院 /大阪公立大学大学院 /大阪府立大学大学院 /大阪市立大学大学院 /酪農学園大学大学院 /総合研究大学院大学
OB・OGからのメッセージ
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藤森さん 2015年度卒業・18期生
勤務先:いであ(株)
所属部署:環境調査部
職種:技師
どのような会社ですか?
いであ(株)は環境コンサルタント会社と建設コンサルタント会社が合併してスタートした会社です。環境,建設の両分野でコンサルタント業務をおこなっており,企画,調査から設計,評価までおこなう総合コンサルタントです。
担当している仕事は?
主に水域フィールド(海,湖,河川)での現況調査やサンプル採取を行っています。分析を行うためのサンプル(水質,底質,生物等)採取や,機械を使用して波の高さや流れの向きの状況を調べたり,音波(水中)やレーザー(陸上)で構造物や地形などを調べ,3Dデータを作成したりしています。そのほかにも大気質や騒音などの陸域環境の調査や,海岸構造物(堤防など)の老朽化の状況調査等に行くこともあります。
働いてみての感想は?
弊社は広い分野で活躍しており様々な業務を行っているので,初めて聞くことや,初めて使う機械によく出会います。コンサルタントは顧客から相談を受ける立場ですので常に情報を収集し自己研鑽を行うことが大事です。覚えることがたくさんあり,現場業務と内業の両立は大変ですが,大変な仕事ほど完遂したときの達成感は大きいです。また,調査は全国いろんな場所で行うので(中には海外に行く人もいます),この仕事をしていなかったら絶対に行かなかった(行けなかった)ようなところに行くこともあり,楽しみのひとつになっています。
大学で学び,現在の仕事で生かされていることは?
大学ではフィールドワークや実験等で,フィールドでの調査,サンプル採取から分析,データまとめ,考察まで行い自然科学を広く学ぶことができました。特にフィールドワークは環境生態学科の強みの一つだと思いますが,今の仕事場はフィールドであることが多いため,たくさんのフィールドワークで身に着けた自然環境を読み取る力,その経験や知識は現在の仕事に生かされています。また,学生時代には琵琶湖内湖での研究をおこなっていたこともあり,現在は琵琶湖での仕事も担当しています。
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山本さん 2016年度卒業・19期生
勤務先:(株)堀場アドバンスドテクノ
所属部署:開発本部グローバル開発部
職種:研究開発
どのような会社ですか?
(株)堀場アドバンスドテクノは,分析・計測機器事業をおこなうHORIBAグループの中で,とくに「水・液体」計測を担うメーカーです。上下水から,半導体分野で用いる超純水や薬液,食品や医薬品製造での工業用水など,あらゆる液体の計測機器を製造しています。
担当している仕事は?
環境プロセス分野の製品開発に携わっています。具体的には,工業排水や品質管理に使用される油分濃度計,環境水測定に使用される多項目水質計などの製品開発です。私の専門は実験系なので,主に製品開発における実験的な評価をしています。実験計画,実験,報告書という流れなので,大学時代の研究に似ている部分はあります。内容は大学時代には扱っていなかった部分も多くあり,新しいことを得ることができるので新鮮です。
働いてみての感想は?
製品開発での評価といえば,実験室でひたすら一人で実験しているイメージがあるかもしれませんが,実際は周りの方々と関わることが多くコミュニケーションが大切だと感じています。製品開発は電気,ソフト,機械,実験など様々な分野の人が集まって行われます。その際に自分の考えを伝えること,またわからないことを相談しながら進めていくことが製品開発をスムーズに行うために必要なことだと思います。
大学で学び,現在の仕事で生かされていることは?
私は大学での研究と課外活動の両方が生かされていると感じています。まず研究について,私は琵琶湖の水の分析をしていたので今の仕事と近い部分もあり,仕事をする上での知識や技術の基礎になっていると思います。また課外活動について,私は湖風祭実行委員会に所属していました。大学祭もひとつのものを様々な部署の人が関わって作り上げていきます。その点について製品開発と近い部分があり,生かされていると感じています。
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新井さん 2016年度卒業・19期生
勤務先:(株)西日本技術コンサルタント
所属部署:上水道部
職種:技師
どのような会社ですか?
(株)西日本技術コンサルタントは,上下水道に関する建設コンサルタントを主軸に,社会資本整備のための調査,設計,計画をはじめ,計量証明事業などを行う会社です。
担当している仕事は?
主に水道管路の設計を行っています。図面の作成はもちろん,設計に必要な調査や取引先との協議なども仕事の一つです。
働いてみての感想は?
入社当初は,初めて耳にする言葉だらけで,何が分からないのかも分からない状態でした。コンサルタント業では,自分の知識や経験を生かし,顧客にとって最適な提案をすることが求められますので,今でも勉強の毎日です。経験したことがないことに直面し,対応しなければならないということは,大変なことです。しかし,問題を解決できたときの達成感は大きいですし,できる仕事が増えていくことに喜びを感じます。
大学で学び,現在の仕事で生かされていることは?
大学では,自然科学の基礎を広く学びました。フィールドワークや実験では,学びの実践を通じ,自然環境の読み取り方やデータの解析方法を身につけることができました。4年間,自然科学についてしっかり学べたことが水道の仕事をする上で強みになっています。グループワークやプレゼンテーションの授業もよい経験になりました。おかげで,話す力や聴く力を鍛えることができたと感じています。取引先との協議では,一回りも二回りも年上の方を相手に,意見を伝えたり,意図をくみ取ったりできる力が求められます。県大生時代に議論や発表を重ねた経験が,コミュニケーション能力として,日々の仕事を支えています。将来は,水道事業の計画にも関われるようになりたいと考えています。並行していろんな資格取得にもチャレンジし,知識を増やしていくつもりです。
環境科学研究科環境動態学専攻
生態系保全研究部門
自然環境の理解や環境問題解決のためにさらに研究を深めたい――,ゆくゆくは環境科学分野の専門家として高度な専門的知識と技術を有する職業人として活躍したい――そのような志をもつ学生のために,滋賀県立大学には大学院環境科学研究科環境動態学専攻の中に生態系保全研究部門があります。
生態系保全研究部門は,水圏生態系(湖沼や海洋など),陸圏生態系(田畑や森林など),そして集水域生態系(河川流域や湿地など)を対象として,人間活動に起因する生物群集や物質循環の変化,そして種間相互関係への影響を定量的に評価しつつ,それら各生態系の保全と修復をめざします。2年間の博士前期課程(修士課程)では,所定の単位を修得後,修士論文の審査および最終試験に合格したものに,修士(環境科学)の学位が授与されます。修了後は,行政機関や民間企業などの多様な方面で高度に専門的な知識を必要とする業務等に従事し,活躍することができます。さらに高度な研究テーマに取り組みたければ博士後期課程(博士課程)に進学することもできます。3年間の博士後期課程(博士課程)では,所定の単位を修得後,博士論文の審査および最終試験に合格したものに,博士(環境科学)または博士(学術)の学位が授与されます。博士後期課程(博士課程)修了者の場合は,大学や行政などの研究機関および企業の開発部門などにおける研究者,あるいは博物館学芸員として活躍する道が開けます。
生態系保全研究部門では,学内・学外問わず広く大学院生を募集しています。
生態系保全研究部門の研究内容に興味のある方は,ぜひ,進学希望の研究室の扉をたたき,見学に来てください。
研究領域の
紹介
生態系保全研究部門は水圏生態系動態,陸圏生態系動態,集水域環境動態の3つの研究領域で構成されています。以下にそれぞれの研究領域の研究内容について紹介します。
水圏生態系動態
湖沼や河川・海洋など水圏生態における1)プランクトンや微生物・底生動物などの生物群集の動態,2)炭素,窒素,リンなどの主要生元素,鉄などの微量必須元素,天然有機物などの化学成分の循環と相互関係を物理的環境の変動をふまえて,水圏生態学と地球化学の観点から総合的に研究します。モデル実験による要因解析を並行して進め,大気・湖沼や河川・海洋の内外における観測で得られた結果と併せて,水圏生態系のダイナミズムを地域的,地球的視点において解明します。
担当教員:伴修平教授,丸尾雅啓教授,浦部美佐子教授,田辺(細井)祥子准教授
琵琶湖上で係留系をセッティングするようす
研究テーマ PICK UP!
- 『琵琶湖におけるカワニナ類の新規遺伝子マーカーの開発』
- 琵琶湖には多くの固有生物がいますが,その中でも巻貝のカワニナ類の固有種は実に15種にのぼります。たった一つの湖の中で,どうやってこんなにたくさんの種類が進化したのかは,たいへん挑戦の価値のある研究課題です。
生物の進化の道筋を知るには,DNAの塩基配列や酵素多型などが重要な手がかりとなります。しかし,不思議なことに,琵琶湖産カワニナ類では,酵素多型やDNAのどの部位を調べるかによって,それぞれの種がどのような順番で進化してきたのかについての結果が違うのです。このことは,酵素やDNAは部位によって遺伝の様式が違い,生物進化の順番を必ずしも反映していないことを暗示しています。そこで,進化の実態により近づくため,まだ誰も調べていない遺伝子の新しい部位を分析することにしました。
調べたのは,フォスファーゲンキナーゼ(PK)という重要な酵素をコードする遺伝子のイントロン領域です。タンパク質に翻訳されることのないイントロン領域は塩基配列の変異速度が速いので,琵琶湖のカワニナ類のように類縁関係の近い生物の系統解析に向くとされています。その結果,調べた琵琶湖固有種の2種のイントロン領域はよく似ていること,固有種ではないカワニナとよく似た配列が固有種にも一部見られることがわかりました。このことから,固有種のカワニナ類の一部はおそらく過去に固有種ではないカワニナ類と交雑したことがあり,そのことが固有カワニナ類の遺伝子解析を難しくしている原因の一つではないかと考えられました。
- *この成果の一部は,第20回淡水貝類研究会(2014年)で発表しています。
過去4年間の修士論文タイトル
- 滋賀県の魚類寄生虫相の拡充調査
- 日本のタテボシガイ Nodularia nipponensisから記録されたGorgoderidae科吸虫の生活環の解明
- 琵琶湖堆積物に存在する重金属元素の貧酸素状態における挙動
- 湖水中における極微量ホスホン酸の定量法開発とその動態
- 琵琶湖集水域におけるニホンウナギ(Anguilla japonica)の生態解明
- 環境DNAを用いた琵琶湖流入河川におけるイワナ Salvelinus leucomaenisの季節的分布変動と遺伝的多様性解析
- 琵琶湖におけるヨコエビ類の動態解析
- 琵琶湖固有種Corbicula sandaiと外来種Corbicula flumineaの環境適応力
- 琵琶湖水中における極微量正リン酸・SRP 濃度の定量と比較
- 琵琶湖固有種Gymnogobius isazaにおけるミトコンドリアゲノム動態分析の適⽤
陸圏生態系動態
陸上生態系の生物多様性保全と生物資源利用に資するため,種,生態系,遺伝子レベルのシステム構成要素と要素間関係を主な研究対象として,個体群動態,一次生産,物質循環,繁殖生態,生態系の修復・再生に関する研究に取り組みます。現在の研究課題には日本の温帯林生態系や湿地生態系の再生機構における動植物関係,メタン吸収機構の解明,里山林管理と獣害,植物の資源競争による空間パターンの形成と進化・適応に関する理論などがあります。
担当教員:野間直彦准教授,吉山浩平准教授,籠谷泰行講師,荒木希和子講師
特定外来生物オオバナミズキンバイの調査のようす
研究テーマ PICK UP!
- 『中池見湿地における希少植物種の保全に向けた生態系管理手法の検討』
- 福井県敦賀市にある中池見湿地は,稀少な植物が残されている低層湿原として有名です。長い間にわたり,伝統的な水田耕作が行われてきた結果,稀少な植物が残されたわけです。しかし,泥が非常に深いので農業機械を導入するのは困難でした。こうした事情から,水田耕作は急速に放棄され,湿地にはヨシなどの大型植物が繁茂し,稀少な植物は急速に衰退してしまいました。一部の湿地については,水田耕作を復活することで,昔の植生の回復を目指した試みがなされています。しかし,多大な労力がかかるので,簡便な植生の回復策が必要でした。そこで,繁茂したヨシの刈り取りの回数をできるだけ少なく,さらに刈り取りに好適な時期を選ぶことで,植生の回復ができるかを研究しました。具体的には,年に1回春の刈り取り,年に2回春と夏の刈り取り,刈り取りなしの3つの実験区を設けて,稀少植物の回復効果について調べました。その結果,年に1回春の刈り取りではほとんど効果はないが,年に2回春と夏の刈り取りでは,ミズトラノオなど稀少な植物がかなり回復することがわかりました。春の刈り取りは,枯死したヨシなどを取り去ることで光条件を改善し,夏の刈り取りはヨシの成長を妨げることで改善された光条件を維持する効果がありました。年に2回の刈り取りは,従来行われてきた対策である耕運機による耕起に比べて,労力はずっと少なくて済みます。したがって,稀少植物の回復に有効でかつ効率的な対策であることが実証されました。今後,この方法により稀少植物の回復が進むものと期待されます。
- *この成果の一部は,中池見フォーラム2014(2014年)で発表しています。
過去4年間の修士論文タイトル
- 茶園の景観形成と茶生産者に関する研究—滋賀県東近江市奥永源寺地域の事例—
- オオバコ属2種のすみわけとその要因—空間ニッチの調査と種間相互作用の考察—
- ヘビとカエルの捕食・被食戦略ゲーム理論“ヘビに睨まれたカエル”は先に飛ぶか後に飛ぶか
- 琵琶湖流入河川にて採取した動物試料と礫試料における種レベルでの珪藻群集解析
- 繁殖期が異なり排他的に生息するタナゴ類の繁殖をめぐる種間相互作用について
- むかご(珠芽)をつけるイブキトリカブトAconitum japonicum Thunb. subsp.
ibukiense (Nakai) Kadota の分布とむかごをつける⽣態的意義の検討
集水域環境動態
琵琶湖を主要なモデル系として陸域生態系と水域生態系で構成される集水域を一体的に捉えて,物質動態と水環境の保全について研究します。陸域生態系については,非特定汚染源(林地,農地,大気降下物,地下水)における物質動態解明と汚濁削減技術,水環境の復元と自然浄化機能の評価と活用,河川・湖沼の水環境の保全,外因性内分泌撹乱物質などの環境汚染物質の環境動態と環境影響の定量的評価について研究します。水域生態系については,湖沼とその集水域において生物を構成する炭素・窒素・リンなどの生元素化合物の分布構造と,それらの生物地球化学的循環過程を環境科学的に研究します。
担当教員:後藤直成教授,尾坂兼一准教授,肥田嘉文講師,工藤慎治講師
ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で分析するようす
研究テーマ PICK UP!
- 『酸素安定同位体比を用いた森林流域におけるNO3-移動・流出過程の解析』
- 硝酸イオン(NO3-)などの窒素化合物は植物プランクトンの栄養源(えさ)になるため,NO3-が湖沼や沿岸海域に大量に流れ込むと湖沼や沿岸海域が富栄養化して植物プランクトンが大量増殖します。このような植物プランクトンの大量増殖は水質・景観の悪化や湖底の酸素濃度減少を引き起こすことが知られています。
一方で,人工的な窒素肥料の生産や化石燃料の燃焼が原因で,雨に溶けて陸域に流入するNO3-が世界規模で増加しています。日本は国土の6割以上が森林ですから,雨に溶けて森林に降ってきたNO3-がどのように森林で使われ,森林から流出してゆくのかを明らかにすることは森林の栄養塩循環のみならず,湖沼や沿岸海域など下流域の環境を考える上でも重要です。
そこで,滋賀県のある森林において,雨水に溶けたNO3-が森林を通過して流出する過程,すなわち雨水,土壌中の水,地下水,渓流水を採取してNO3-の酸素安定同位体比を測定することにしました。森林から流出するNO3-の起源には森林土壌で生産されるものと,雨に溶けて降ってくるものがありますが,NO3-の酸素安定同位体比を測定すれば,森林から流出するNO3-の起源がそのどちらかなのかを区別することができます。
その結果,降雨時には大気降下物由来のNO3-が少なからず森林から流出していること,それ以外の時期は主に森林土壌中で生産されたNO3-が流出していることが明らかになりました。このことは雨に溶けて森林に降ってきたNO3-の一部は,森林の栄養分として使われることなく,直ちに森林外へ流出していることを示しています。一般的に森林では栄養分としての窒素化合物が不足しているために,栄養分として大事な窒素化合物であるNO3-の一部が使われずに流出していることは意外でしたが,今後森林へ降ってくるNO3-の量が増えると森林から流出するNO3-も増加することが示唆されました。
- *この成果の一部は,久郷ほか(2015:陸水研究)やOsaka et al.(2016:Journal of Geophysical Research)などの学術論文として公表しています。
過去4年間の修士論文タイトル
- 路面直上で捕集した大気粒子に含まれる成分の環境動態
- 環境水を対象とした 藻類のエストロゲン様活性の再評価 ―野外定期調査による検討―
- 安定同位体比およびN2/Ar測定による内湖におけるNO3-除去プロセスの解明
- 琵琶湖流入河川における水文条件の違いが土地利用と窒素流出の関係に与える影響
- ⻑期的な調査データを⽤いた琵琶湖⽔中の窒素動態の解析
- *大堀道広教授と堂満華子准教授は生物圏環境研究部門に属しています。
大学院修了生の主な就職先
- 博士前期課程(修士課程)
- 公務・団体・教育など(中・高教員を含む)
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- 農林水産省植物防疫所,
- 滋賀県,
- 岐阜県,
- 熊本県,
- 名古屋市,
- 日本気象協会,
- 京都大学防災研究所,
- 海士町複業(協組),
- 長浜市伊香森林組合
- 一般企業(環境関連)
-
- アイテック(株),
- 旭計器工業(株),
- (株)アナテック・ヤナコ,
- いであ(株),
- 応用技術(株),
- 川重テクノサービス(株),
- (株)関西技研,
- (株)関電エネルギーソリューション,
- (株)キンキ地質センター,
- 栗田エンジニアリング(株),
- (株)クリタス,
- (株)建設環境研究所,
- 興亜開発(株),
- (株)島津アクセス,
- 新川電機(株),
- セントラルトリニティ(株),
- 大洋産業(株),
- 日本インスツルメンツ(株),
- プラスソーシャルインベストメント(株),
- (株)堀場アドバンスドテクノ,
- (株)堀場テクノサービス,
- (株)日吉,
- 三浦工業(株),
- 八千代エンジニヤリング(株)
- 一般企業(その他)
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- アキレス(株),
- (株)NBCメッシュテック,
- (株)ジャッカル,
- (株)昭建,
- 日新薬品工業(株),
- (株)村田製作所,
- 森下仁丹(株),
- (株)モンベル,
- 山田化学工業(株),
- ヤンマーアグリジャパン(株)
- 博士後期課程(博士課程)
-
- 橿原市,
- 多賀町,
- 京都大学,
- 三重大学,
- 滋賀県立大学,
- 日本海区水産研究所,
- 豊橋市自然史博物館,
- ゆざわジオパーク,
- 近江オドエアーサービス(株)
OB・OGからのメッセージ
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私は現在,栗田工業株式会社の子会社である栗田総合サービス株式会社に所属しています。勤務している事業所では,超純水をつくるための樹脂や膜を製造しています。私は主に,製品の出荷検査に関係する水分析を行っています。また,最近はチームリーダーとして,業務の調整なども行っています。
大学院では,琵琶湖で近年漸増している難分解性の溶存有機物について,その分解性と栄養塩(窒素・リン)との関係について研究しました。
大学院で学んだことは知識として活かせる部分もありますが,それ以上に,課題への向き合い方が大いに役に立っています。仕事で問題が起こったときには,まず現状を正しく把握することが必要です。そうでなければ,適切な解決策を立てられません。大学院での研究は,琵琶湖の現状を明らかにすることであったといえます。何をどう調べれば現状を把握できるのかを考えて実行する力が,大学院で身につけたことの一つだと思います。
修士課程はプレッシャーを感じ続けた2年間で,めげそうになったこともあります。でも先生や先輩方に助けられ,最後まで研究をやり遂げることができました。修了して何年経っても,かけがえのない2年間だったと感じます。吉田さん 2004年度修了・修士(環境科学)
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私は,大学院修了後,分析装置のアフターサービスを請け負う会社,株式会社島津アクセスでサービスエンジニアとして勤務しています。主な仕事内容は,液体クロマトグラフや質量分析計という成分を分析するときに使用される装置の修理,据え付け,点検といったことをしています。一般的にはあまり知られていない装置ですが,製薬,化学,食品分野をはじめ,各分野の研究に欠かせないものとして広く使用されています。
そんな知られていないような装置を扱う仕事ですが,この仕事に興味を持ったきっかけが大学での研究活動でした。私の研究は琵琶湖における物質循環と植物プランクトンの関係を明らかにすることで,船を使って琵琶湖水を採取しに行き,それを分析するということをしていました。このとき様々な種類の分析装置を使うことがあり,そのうちの一つに液体クロマトグラフがあったことがこの仕事を知ったきっかけでした。
また,大学で学んだことは現在の仕事でも非常に役に立っています。実際に分析装置を使っていた経験はもちろんのこと,試薬やサンプルを調整する技術などが,仕事にも生かされる場面が多々あります。太田さん 2012年度修了・修士(環境科学)
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私は,京都大学の学際融合推進センター(森里海連環学教育ユニット)の研究員として,瀬戸内海の基礎生産に関する仕事に関わってきました。滋賀県立大学在学中は,河川の研究を行っていましたが,野外調査,室内実験,データ解析の各過程でさまざまなことを学びました。また,湖沼環境実験施設にいたので,実習調査船「はっさか」での定期観測などを通して,チームとしての一体感を感じることができました。大学院で身につけた知識や技術はもちろんですが,仲間とともに過ごしたなかで経験したことは,いまの自分の基盤となっているように思います。
かつて,富栄養といわれていた瀬戸内海ですが,いまでは透明度もよくなりました。現場は時とともに姿を変え,その中で環境問題とされることも変化していきます。学生のときに取り組む課題はそのときの記録ともなるものです。ぜひ,熱意をもって取り組んでください。安佛さん 2006年度修了・博士(環境科学)
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今,三重大学で地域連携の一環として地元企業や農林業関係者などからの技術相談,また企業との共同研究の一部を行ったりしています。その中で,大学院時代に身につけた分析技術は大きな強みとなっています。また,地域の中にある課題を解決していくために,まずは机上で調べたり,考えたりしますが,やはり現場に行ってわかることが多々あります。滋賀県立大学のまわりには琵琶湖を中心にそれを取り巻く様々な環境があります。自然環境をフィールドとして研究する場合,現場に行ってなんぼです。どうかそこで積極的に自然の現象や事物の不思議さに興味を持ち,それらについて意欲的に探求していく力を養ってほしいと思います。紀平さん 2008年度修了・博士(環境科学)
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京都大学生態学研究センターで研究員として働いています。私の仕事は,センターで所有する琵琶湖調査船「はす」の運航,琵琶湖の調査,定期観測,物理・化学・生物因子の長期変動の要因解析など多岐にわたりますが,それらの仕事すべてに,滋賀県立大学で学んだことが生きていると思います。
私は大学院時代に,琵琶湖の水陸移行帯の微生物による窒素浄化(脱窒)について研究していました。そのころを思い返すと,自由に研究させてもらったな,と思います。研究は,それまでの世の中の知見に新たな知見を(ほんの少しでもいいから)書き加えていく活動だと思いますが,それには自分で「思考」する能力を身につけることが必須だと思います。もちろん,授業や勉強での知識が支柱にありましたが,私の場合,そのような思考力は,自分で自由に研究を計画し,琵琶湖で水まみれ,泥まみれになりながら調査し,それをもとに実験を組み,その中で明らかになったことを論文にまとめていく過程で身に付いたと実感しています。
琵琶湖の素晴らしい四季の移ろいを感じながら,滋賀県立大学で充実した研究生活を送ってください。赤塚さん 2010年度修了・博士(環境科学)
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私の現在の勤め先は近江兄弟社(株)のグループ会社の一つである近江オドエアーサービス(株)です。当社は7大公害の一つである悪臭をターゲットとし,主に臭気採取用機材(エアーポンプや臭気採取用バッグ等)や臭気対策用消臭剤の販売,さらに事業所を対象にした臭気対策コンサルタントを行っています。
その中で私は技術部技術開発課に所属しており,主に臭気採取用機材や消臭剤の設計・開発を担当していますが,その他にも機材や消臭剤の品質管理,臭気の採取や測定等,色々な業務に携わっています。
大学院時代は,琵琶湖とその周辺水域におけるケイ素の動態に焦点を当て,水中に含まれるケイ素が流域河川から流れ込み,琵琶湖内での食物連鎖を経て湖底へ堆積し,さらに湖底から湖水中へ再び回帰するといったフローについて研究しました。
今の仕事は別の分野ですが,製品開発における調査,実験,評価の一連の過程は,大学時代に培われた研究への取り組み方が生かされています。
大学院へ進もうと考えている皆さん,キャンパスが琵琶湖のすぐそばにあり,研究フィールドとして琵琶湖に興味のある方にとってはすばらしい環境が整っていますので,思う存分研究に打ち込んでください。安積さん 2011年度修了・博士(環境科学)